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年々規模を拡大し続けている高校生ビジネスコンテスト「キャリア甲子園」。
4,300人が参加した2018年度大会を制したのは海陽学園の「LUNCH PACKS」だった。
2016年度大会優勝の同じ高校の先輩、「米ット。」の活躍を見ていたというLUNCH PACKS達はいかにしてキャリア甲子園を戦ったのか。愛知県の全寮制高校、海陽学園に赴いて話を聞いてきた。(取材・執筆:羽田啓一郎)
*このインタビュー内容は2019年4月時点のものです
チーム結成は締め切り直前だった
羽田:改めましてみなさん、優勝おめでとうございます!
全員:ありがとうございます!
羽田:優勝してから一ヶ月程度経ちましたが、その後いかがですか?周囲からの反響とかありました?
戸田:そうですね、、。優勝すると扱いがこんなに違うんだなーというか(笑)。
内川:日経新聞にあんなに大きく出るとは思いませんでした(笑)。
羽田:よかったです!さて大会全体を順を追って聞いていきたいんですが、そもそもキャリア甲子園はどこで知ったんですか?
戸田:2016年大会の時に海陽学園の先輩方が優勝したじゃないですか。僕らはあの時中学生だったんですけど、先輩方が優勝したビジコン、という形でキャリア甲子園はもともと中学の頃から知ってたんです。
羽田:「米ット。」ですね。彼らのことは知っていたんですか?
内川:はい、あの学年の中でももともと目立ってた四人だったので。スペックがとにかく高い人たちで、あの四人が組んだのなら最強だと思っていたんです。実際、優勝しましたしね。
羽田:なるほど。ではもともと知っていた中で、どうして2年生のタイミングで出ようと思ったんですか?
戸田:言い出しっぺは僕なんですけど、高1の時も出ようと思っていたんですよ。その時は僕はリーダーじゃなくて先輩と組んでいたんですけど、先輩が途中で挫折しちゃって結局なくなっちゃったんです。それで僕、課外活動など色々やっていたんですけどどれも中途半端で。何かに取り組んで成果を残したいってずっとモヤモヤしてたんです。それで高2になってキャリア甲子園の募集が始まって「やるしかない」と。
羽田:メンバー集めは順調だったんですか?そこに苦労して挫折する子も多いようですが・・・。
戸田:いや、メンバー集めは大変でしたよ。僕らの高校は授業でキャリア甲子園に取り組んでいるわけじゃなくて、寮の中で募集があってやる気のある奴が応募する、という形式なので実質的には個人応募みたいなものなんです。で、校内募集の締め切り前日にやっとメンバーが揃った感じです。
内川:よく覚えていますが、夜にもう寝ようと思って歯を磨いてたんですよ。そしたら部屋が突然バンっと開いて戸田が「キャリア甲子園出よう」と。
羽田:本当にバタバタだったんですね(笑)。渡邉くんと藤田くんは?
渡邉:僕も戸田に誘われたんですが、正直悩みましたね。これまでも課外活動とかやってきてあんまり勉強時間が取れなかった。高校2年で受験も迫ってきてる中で勉強を取り戻さないと
と思っていた時期だったので。キャリア甲子園に時間を取られて勉強に集中できるのかな・・・?と悩みました。
藤田:僕も同じ感じですね。どこまでチーム活動に力になれるかその時は自信なくて。でも戸田も困ってたし勝ち進めるか分からないから「とりあえず名前書いといて」って。まさか決勝まで行くと思ってなかったので(笑)。
羽田:なるほど、戸田くんの人の巻き込み力がすごいんだな・・・。その中でZOZOテクノロジーズのテーマにした理由は?
戸田:いいアイデアが出そうな企業を三つくらいに絞ったんですよ。で、もし何のアイデアも出なかったら解散しよう、と決めて。でもその中でZOZOのテーマでやってみたいアイデアが僕の中でひらめいたのでメンバーに提案してみたんです。そしたらいいじゃんってなって。
羽田:LUNCH PACKSというチーム名って、由来はあれですよね・・・?ZOZOテクノロジーズにしようと決めてからあのチーム名にしたんですか?
内川:そうです(笑)。深い意味はなかったんですが、遠回しに一発喰らわせようかなと思って。後からZOZOの人にそれを話したら「全然遠回しじゃないよ」って言われましたけど(笑)。
羽田:書類審査通過チーム一覧を見たときにLUNCH PACKSって見かけて、何かやらかしてるチームが海陽にいるなあと思ってましたが・・・(笑)。ところでチーム内の役割分担ってあったんですか?
チームの中での役割分担。インフルエンザで寮閉鎖。全員強制帰省の危機!
内川:強いて言えば戸田が全体のリーダーでアイデアを出したりする役。で、僕はそれを形にする役割ですね。パワポとか作るの、すごく好きでこだわっちゃうので。やり始めたら止まらないんです。
戸田:渡辺と藤田はリサーチ力がすごいんですよ。僕と内川は結構思いつきと勢いでアイデア出しちゃうんですけど、二人はZOZOのこととかめちゃくちゃ調べてくれて、僕のアイデアを補強してくれるというか。
内川:そう!ミーティングの度にどんどん資料がアップデートされて情報をまとめたWordのファイルのボリュームが大きくなっていってて。
藤田:調べてくれと言われたわけじゃないんですけど、リサーチは大事だよねって思ってたので。
羽田:いや、めちゃくちゃ大事ですよそれ。相手の意図を理解せずに進めてしまうと後で事故になりますからね。さて、ではそんな役割分担で進めて書類審査に提出した、と。自信はありましたか?
戸田:まあ、書類は通るんじゃないかなと僕は思っていました。アイデアは自信あったので。
渡邉:そう言えば僕ら、書類審査結果が出る前にプレゼン動画を収録してしまったんですよ。
羽田:え、書類は通過する自信があって?
藤田:いや、僕ら冬休みが長くて全員帰省しちゃうんです。僕らは全員出身がバラバラなので帰省中は会えない。だからプレゼンの収録は先にやってしまおう、と。
戸田:他の寮生がみんな続々と帰省してるのにうちらだけ最後まで残って収録して。動画が無駄にならなくてよかった(笑)。
内川:そういえばそのプレゼン動画の結果が出る時も僕ら帰省する時でしたね。1月下旬頃。
羽田:え?その時期もお休みがあるんですか?
渡邉:いや、インフルエンザが流行して学年閉鎖になったんです。で、寮から全員帰省しろってなっちゃって。帰省する道すがらにプレゼン動画審査の結果を見て「おお、通った」と。
羽田:なるほどー、寮生活ではそんなことがあるんですね・・・。そしてそこからいよいよ準決勝。
準決勝大会に向けた対策はどんな風に行ったんですか?
戸田:僕ら、同じ学年の友達でキャリア甲子園2017に出ていた友達がいたんです。彼らは2017で準決勝まで進んだんですけど、その後総合優勝した豊島岡女子学園のGirlingに準決勝で負けて。彼らに準決勝の雰囲気とか準決勝出場チームのプレゼンの全体感みたいなのを色々聞いて、イメージを膨らませました。
競合がしのぎを削る準決勝大会。そして決勝大会へー。
羽田:ああ、それは心強いですね。準決勝はどうでした?緊張しましたか?
藤田:めちゃくちゃ緊張しました・・・。
渡邉:書類審査と動画審査って相手が見えないけど準決勝ではライバルを目の当たりにするじゃないですか。「あ、ここからが始まりなんだ」って思いましたね。
戸田:僕ら、準決勝大会の当日に始発で東京向かったんです。早めについて練習しようって。でも行きの新幹線、緊張と眠さで誰も喋らなくて。それで準決勝会場付近のカラオケに入って練習しようと思ったら、カラオケにパソコン持ってプレゼン練習してる高校生がいて。これがキャリア甲子園準決勝か!って思った記憶があります(笑)。
羽田:準決勝大会は自信あったんですか?
戸田:僕は64チームの中で1位になるぞと思ってましたが、メンバーはそう思っていなかったっぽいです(笑)。
内川:やっぱり準決勝だからみんなすごくて。僕らは5番目のプレゼンだったのですが、特に僕らの後に出てきたチームですごいチームがいたんですよ。パワポとかすごい動くし、アイデアも面白かった。それ見て「やべえ、負けたかもしれない」と思いました。
戸田:みんな自信なさそうだったのに決勝進出チームが決まった後に「実は俺は勝てると思ってた」とか言ってたよね(笑)。
渡邉:後から聞いたんですけど、僕ら含めて複数チームの中でZOZOの人たちも悩んでいたようです。それで決勝戦という舞台で戦うことを考えた場合に僕たちを選んでくれたと。
内川:僕ら、つかみは成功した感覚があったんです。5番目という順番だったので企業の方も少し集中力切れてるだろうなと思って、プレゼンの最初は劇を持ってきて。それで結構ウケたんですよね。それがよかったのかもしれない。
戸田:僕が思ったのが、他のチームは昨年優勝したGirlingにプレゼンを寄せてきてるなって思いました。多分昨年度の動画で研究してきたんだと思うんですけど、僕たちは過去のプレゼンは参考にはしましたが僕たちなりのオリジナリティを追求した。それがよかったのかもしれません。
羽田:それはあるかもしれませんね。2017大会では2016優勝の「米ット。」に似たプレゼンが多かったんです。さてそこから決勝大会まで一ヶ月あったわけですが、どんな準備をしたんですか?
内川:アイデア自体は変わっていませんが、プレゼンスライド、スクリプト含め全部作り替えましたね。やはり決勝大会はこれまでと違う戦いになるとわかっていたので。
渡邉:準決勝のときに他のチームのプレゼンを見てて思ったことが二つあったんです。まず自分の伝えたいことを限られた時間の中で相手に伝えるのって難しいんだなということ。そして次が色々プレゼンしても、結局覚えているのってワンワードだったりする。だから細かいことを理解してもらうより、いかに相手にインパクトを与えるべきか、という考え方をしていました。
内川:それで準決勝のつかみ以外にも劇をふんだんに取り入れたんです。僕らの先輩の「米ット。」も劇を使っていましたが、劇のいいところは情報量多くても伝わりやすくなるということと、聞いている人が企画に対する疑問に思うであろう箇所を劇の中で解消できること。全部作り変えるのは大変でしたがやるしかないだろうと。
藤田:色々な人に見てもらってフィードバックをもらって修正して。毎日毎日練習してましたね。最後の方とか緊張感が高まってきて顔が全然笑ってなくて。前日とかボロボロでした。
戸田:決勝戦で事務局が用意してくれたホテルに地方組は全員泊まるじゃないですか。朝起きたら隣の部屋で他のチームが練習してる声が聞こえて。やべえなこれって(笑)。
内川:僕は同時並行で科学の甲子園も進んでいて同じ日に科学の甲子園も決勝があったので事務局ホテルに泊まれなかったんですよ。だから前日練習はオンライン通話でプレゼン合わせて・・・。
羽田:決勝大会ではどこかベンチマークしてるところってあったんですか?
戸田:B.A.K.A.ですかね・・・。チーム名が僕たちと同じノリなのかなって。プレゼンも一番最後だったし最後に全部持っていかれるんじゃないかって。
内川:でも決勝はどのチームも普通にレベル高かったですよ。「プレゼンうめえ・・・」って素直に思いましたもん。僕ら、リハとかで他チームのプレゼン見て「これはやばい」と思って最後までプレゼン作り直していたんです。台本もセリフ追加して。だから最後の最後までバタバタしていました。
羽田:決勝大会には海陽を卒業して大学進学が決まった「米ット。」が応援に来てくれてましたね。あれは嬉しかったんじゃないですか?
戸田:嬉しかったですね。やっぱり自分たちが憧れていた先輩が応援に来てくれるってすごく心強くて。僕ら、引率者とかいなかったので心細いのもあったんです。他チームは引率の先生とかいるチームも多かったので。だから先輩方が来てくれてすごく勇気づけられました。それまで緊張で顔が引きつってましたが、先輩方の顔を見て少し楽になれた。
優勝できた理由。キャリア甲子園で得たもの
羽田:さてズバリ、勝因はなんだと思いますか?
戸田:うーん、ランチパックを朝に買ったこと・・・?
全員:爆笑
内川:そうそう、ランチパック買ったんですよ。朝に食べたのは藤田だけでしたけど(笑)。
藤田:みんな帰りの新幹線とか後日食べてたよね。あと、必勝祈願で神社にお参りもしたよね。
戸田:まあランチパックの話は冗談として、やっぱり慢心せずにあらゆる角度から徹底的にアイデアもプレゼンも見直して完成度を高めたことじゃないですかね。本当に、全てをつぎ込んだので。
内川:僕、劇やスライドづくりを担当していたのでそれで負けたって思いたくなかったんです。あとはやはり準決勝大会で戦った他のチーム。準決勝のどのチームもすごくて、僕らは本当に紙一重で勝てたに過ぎないと思ってて。だからこそ負けたチームの人たちが決勝大会で僕らのプレゼンを見て「なんであんなのに負けたんだろう」と思わせちゃいけないなって。
渡邉:結構僕と藤田は過去の例とかで傾向とか見てたんですけど、例年高校1年生が優勝してるじゃないですか。僕たちは2年生なので前例を壊さないとって思ってました。あと過去のファイナリスト見てるとニキビある人がいない。僕たちやばいかなって(笑)。
藤田:後はチームワークですね。ギリギリでスライドとセリフを追加したことで時間配分が狂っちゃったんです。最後のパートが来た時にいつもは1分残ってるのに本番では40秒しかなかった。だから必死に巻いてプレゼンして残り時間0秒のギリギリで終えることができました。最後までチームワークを発揮できたなと思っています。
羽田:いや、本当に四人はチームって感じがしますね。全員強みは違うんでしょうけども。さて改めてキャリア甲子園全体を振り返って何を得て感じたか、教えてもらえますか?
戸田:僕はもともとアイデアとか出すのは好きで得意な方なんですが、アイデア止まりだったんです。でも今回、僕がアイデアを出して内川が追加アイデアを出して、渡邉、藤田がリサーチでアイデアを補強してくれて、ただの一人の思いつきのアイデアがみんなの力を借りて一つの企画になっていく過程がめちゃくちゃ面白かったです。そのプロセスを体験できたのが大きかったです。
内川:僕はスライドを担当していたこともあって資料作成能力はめちゃくちゃ伸びたと思います。あとは自分たちの企画やプレゼンを客観的に見る力。やはり自分たちで熱中して作ったものは視点が近視眼的になってしまいます。聞いてる人がどんなことに疑問を持つのか、この言い方で伝わるのか、といった検証する力も身についたと思っています。
渡邉:僕は先ほどもお伝えした「自分の言いたいことが相手に伝わるとは限らない」ということと、「聞いてる人にはワンワードしか残らない」がとにかく得た教訓で大きかったです。あとは僕と藤田はリサーチを沢山しましたが、何事もそこに至るまでの背景ってあるんだなと思いました。キャリア甲子園の場合、企業から出されているテーマをそのまま受け取って考えるよりも、その裏側にどんな背景や事情があるのかを調査していくことで知っていく。目に見えている情報の裏側を探っていく重要性を学びましたね。
藤田:僕は他の3人と違って、校外の課外活動自体がほぼ初めてだったのでとにかく未知の連続でした。正直キャリア甲子園を始める時は悩んだし、実際かなり大変だったけど、楽しかった。何か一つに絞る、というよりこの半年間の全てから得たものは大きかったと思います。
羽田:ありがとうございます。それでは最後に、キャリア甲子園2019に出場を考えている高校生に何かアドバイスはありますか?
戸田:では代表して僕から。さっきもちょっと言いましたが、過去のファイナリストの動画は参考程度にしておいたほうがいいです。僕らは劇をやりましたけど、それは僕らなりの色々な葛藤と試行錯誤があった上でたまたま劇にたどり着いただけ。それをそのまんま真似するだけじゃなくて、まずは自分たちのオリジナルの表現方法を模索して欲しいですね。過去の動画はライバルチームもみんな見てくるわけで、それを真似ていては差別化ができないし勝ち上がることはできないですからね。
羽田:ありがとうございます。皆さんのこれから、期待してます!!
全員:ありがとうございました!