2020年、世界中に深刻な被害をもたらしている新型コロナウィルス。特にその影響を受けてしまったのが観光業界といえるだろう。人が”移動”をしなくなるという人類史始まって以来の事態だ。「旅」をテーマにキャリア甲子園に参加した日本ユースホステル協会に、今回のテーマ出題の背景をインタビューした。この状況をブレイクスルーするのは難しいが、その分やりがいがありそうなテーマなのではないだろうか?そしてあなたは”旅”と”旅行”の違いを、考えたことがあるだろうか?afterコロナ 時代に、皆さん自身がどんな旅だったらしてみたいかを想像しながら読んでほしい。
(この取材記事は2020年9月末のインタビューをもとにしています)

お話を伺った方

日本ユースホステル協会 池田 和誠さん

音楽系の専門学校を卒業した後にテレビ番組制作会社に入社。音楽番組やアーティストのPV、そして旅番組を担当した後、ヨーロッパに3ヶ月間旅をして旅の良さを痛感し、日本ユースホステル協会にアルバイトとして参加。その後2007年に正式に職員として働き始める。現在はマーケティングマネージャーとしてHostelling Magazineをはじめ、ユースホステルの魅力を社会に伝える仕事をしている。

観光業界を襲った、新型コロナウィルス


ー今回のテーマ出題には、コロナの深刻な影響が背景にあると思います。

そうですね、私たち旅行/観光業はコロナ禍で大きな経済打撃を受けた業界の一つでしょう。ユースホステルは世界中で事業を展開していますが、まだ全世界の施設のうち、約30%が休館せざるをえない状態にあります。コロナ禍は一時的な事件ではなく、人々の「意識」を根本から大きく変えました。今、旅行/観光業は大きな転換点を迎えていると私たちは考えています。そこでキャリア甲子園に参加する高校生の皆さんに「自分が行きたい」と思えるような新しい旅の仕組み、宿泊施設の概念を提案していただきたいのです。

ーユースホステルと一般的なホテルの違いを教えてください。

もともと私たちの事業理念には「人材育成」という考え方があります。若者が生活圏を離れて旅をする事で広い視野を持った人材に育ってほしい、という思いです。ですので費用も比較的安価で、相部屋や宿泊客同士が出会うことができるラウンジが備わっている施設が多いのです。ただ、建物という意味では一般的なホテルと変わらない施設も出てきています。ヨーロッパではバストイレつきの個室部屋の施設も一般的になってきています。”ユース”とついているので若い人むけのホテルと思われるかもしれませんが、「旅を通した人材育成」という観点では年齢は関係ありません。ユースホステルの利用客も若者だけではなく家族づれや大人の単身旅行の方もいらっしゃいます。根底にある哲学、考え方は変わりませんが、人々の生活様式や価値観の変化に合わせて私たちも変化しています。

ーしかしGo toトラベルキャンペーンで観光業も復活の兆しが見えてきたのではないでしょうか?

観光業界全体で見たら良い効果が生まれていると思います。ただ、Go toトラベルキャンペーンで恩恵を受けているのはどちらかというと高級な宿でしょうね。お得感も高いですから。

ーああ確かに・・・。

もともと日本の観光業界は内需(国内の経済活動のこと)が多いんです。ユースホステルもインバウンド(外国人観光客)は30%程度しかない。コロナウイルスは世界中では依然として深刻な状況の国もあるのでインバウンドの回復はまだ時間がかかると思いますが、日本国内では観光を盛り上げようという機運がある。ユースホステルもまだ一部が休館している状態が続いていますが、復活に向けて動き出そうとしているところです。

ーユースホステルの利用客は外国人観光客が多いイメージでした。

そうでもないんですよ。企業や学校といった団体旅行、家族や個人旅行など幅広い国内のお客様にご利用いただいています。ただ、日本はZ世代(1990年代後半以降に生まれた世代)の利用状況がいまいち目立ってきていません。世界的にはZ世代の購買力に注目するレポートが数多く出され、トレンドを左右する世代とされているのですが、日本の若者の旅に関する研究はあまり実施されていないように思います。だから旅行業界関係者の中でも「日本の若者は旅に出ない」とされていて、大きな経済効果を生まないマーケットと見られています。だからこそ、キャリア甲子園では皆さんのアイデア、提案に期待しているのです。

旅と旅行の違いを考えてみよう

「最も快適なユースホステル」に選ばれたこともある京都の京都市宇多野ユースホステル


ー今回のテーマは”旅”となっていますが、”旅”と”旅行”の違いはありますか?

実は今回、そこは重要なポイントです。明確な定義があるわけではありませんが、精神性という意味で旅と旅行は違うものだと考えていて、今回皆さんに考えてもらいたいのは”旅”です。旅行はエンジョイするために行くものですが、旅は自分の可能性を広げるために行くものだと私は思います。

ーどうなれば”旅”といえるのでしょうか?

これは個人的な感覚ですが、2週間以上出かけるものが旅、ですかね。1週間くらいだと移動時間で往復2日間くらい使っちゃいますし現地滞在時間は5日程度。5日間だと意外と回れる場所は少ないので、あらかじめどこに行くか決めていくことが多いですよね。それだと旅ではなくて旅行、観光になってしまうかなと。決められたプログラム通りに回る時間が多いと、未知のものと出会う可能性はとても小さくなってしまいます。

ーそれはすごくわかります。予定調和ではないというか、何があるかわからないのが旅の魅力ですよね。

そうですね、そして旅は一人で行った方がいいと私は思っていて。一人で行くとどうしても現地の人たちと話すことになるんですよ。どこかに行こうと思った時にネットで情報を調べることもできますが、細かいことは意外と分からなかったりする。その時に現地の人と話す。すると現地の人が親切に教えてくれたりする。優しくされるとそれだけで旅は楽しくなるし、その地域や国のことが好きになる。私は世界中の人が旅に出て、旅先で優しくされる経験が広がれば世界が平和になるんじゃないかと本気で思っています(笑)。

日本の若者は旅に出ないのか?


ー池田さんが初めて出かけた旅はどこなんですか?

中学一年の時に父親の仕事についていってインドのカシミールに行ったのですが、なかなかハードな経験をしたのが初海外ですね。一人旅という意味ではキャリア甲子園の皆さんと同じ高校生の時なんです。高校3年の時にサンタクロースに会いたいと本気で思ってフィンランドに出かけました。 “旅というものは「呼ばれて」行くものなのだ”という好きな言葉があります。計画は必要最低限にして現地で起きるワクワクを楽しむ。だから若いうちに行って欲しいですね。大人になってから海外に行くと、お金があるからすぐタクシーとか使っちゃうので(笑)。

ー海外じゃないと旅とは言えませんか?

そんなことはありません。国内でもいいと思います。ただ、どれだけ”決まっていない”、余白があるかどうかが大事です。先行きがわからず、自分でどっちにいくかを考えて決めるのが旅。人生にも似たようなところがありますからね。

ー日本の若者は旅に出ない傾向にあるのでしょうか?

と、言われていますが私個人は「本当にそうなのかな?」とも思っています。若者の人口が減少していますし、実態がよく分からない、というのが本音です。ただ、確かに海外に行くと旅をしている日本人と出会うことは少ないように感じます。

ーキャリア甲子園に参加する高校生に期待していることはなんでしょうか?

とことん考えてほしいのは「自分だったら行きたくなるか」です。チームでアイデアを考えるだけではなく「これは本当に行きたいか?」と検証してみてほしいですね。そして今回、素晴らしいアイデアがあったら是非私たちと一緒に実用化に向けて取り組ませてほしいと本気で思っています。もういくつかのユースホステルにはその了承を取っています。
今回テーマを出題する各社の中でも、特にブレイクスルーしたい業界なのは間違いないので、私たちは本気でキャリア甲子園に期待しています。
私も関わっているHostelling Magazineには各界の著名人にも”旅”について語ってもらっています。是非読んで参考にしていただき、皆さんなりに一度”旅”について考えてみてほしいですね。

ー最後に、池田さんがおすすめの旅先はどちらですか?

ノルウェーのロフォーテン諸島ですね。オーロラと鯨が両方同時に見れたりして、まるでCGのような幻想的な光景が見れます。是非行ってみてください!

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