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今回で3回目の参加となるミツカン。過去には、マイナビキャリア甲子園で出てきたアイデアを高校生とともに製品として具現化したこともある企業だ。今年のミツカンのテーマも、単なる食品に関するアイデアを問うものではなく、しっかりと考えることが求められる挑戦しがいのあるテーマとなった。考え始めると奥が深い出題テーマについて、インタビューを通して考えてみて欲しい。(取材:羽田啓一郎)
お話を伺った方
吉岡 真優さん
高校の進路選択の際、なりたい職業が明確になっておらず、選択肢が広く持てるようにと文学部を選択。大学入学後、教育心理学を専攻した。その後、「性別国籍関係なくさまざまな人を幸せにできる仕事」を軸に就職活動をする中で、食品業界、その中でも、そのまま飲んだり食べたりせず、誰かの一手間が加わって成り立つ調味料を作る企業に魅力を感じ、ミツカンに入社。営業の仕事を経験した後、現在はメディアやマーケティング関連の仕事に従事している。
改めて学ぶ、味ぽんブランド
ー今日はよろしくお願いします。製品について高校生の皆さんも知っている方が多いと思いますが、改めて「味ぽん」というブランドについて教えてください。
吉岡:よろしくお願いいたします。まず私たちミツカンは1804年の創業から220年以上にわたり、常に「食」に対して真剣に向き合い挑戦してきました。その中で「味ぽん」というブランドは、今年60周年を迎えるブランドです。日本では古くからぽん酢という調味料は広く愛されていますが、その中でも「味ぽん」は特に人気がありますね。
ー「ぽん酢」と聞くと勝手に頭の中で「味ぽん」を連想していましたが、よく考えたら「味ぽん」という名前はあくまでミツカンの商品名ですものね。
吉岡:ありがとうございます。元々「ぽん酢」はオランダ発のかんきつ果汁を使ったお酒「PONS」が語源と言われており、時代とともに調味料へと変化し、醤油などを加えて様々な料理に使えるようにアレンジしたのが「味ぽん」なのです。他社様でもぽん酢製品は販売されている中で、「味ぽん」が発売されてから60年間も続いてこられたのは、「時代のニーズに合わせて少しずつ改良を重ね、生活様式の変化やお客様のライフスタイルに合わせて新しい使い方をご提案してきたこと、これこそがブランドがここまで成長できた理由なのではないかと思っています。
ーそれだけ長い間消費者に愛されている商品も珍しいと思うのですが、ここまでの歴史の中で変わらなかったこと、変えなかったことはありますか?
吉岡:味ぽんは、どういう時代にあっても人に寄り添う存在であるということでしょうか。調味料であり、一番目立ちたいというわけではなく陰ながら支える縁の下の力持ちでありたいなと考えています。ただ、昨今はブランドを維持・成長し続けることは大変難しく、味ぽんもその時々でぶつかる課題に対して常に試行錯誤しながら、壁を乗り越えてきました。今回のマイナビキャリア甲子園も、そんな背景があって高校生の皆さんと一緒になって考えられればと思っています。
「個人の価値観」で間違えてはいけないこととは?
ーでは今年のテーマについていろいろお聞かせください。「個人の価値観が行動基準」とテーマの中でも触れられていますが、これはどういう意図が込められているのでしょうか?
吉岡:集団と個人の関係性が変わってきている中でどのような食文化が作れるか、という趣旨ですね。日本はこれまで、組織の考え方や、周囲に合わせることが優先されてきましたが、昨今は個人の考え方が尊重されて受け入れられる時代になっています。集団の中にいながら、役割をこなしながらも個人の価値観を優先した判断をすることも良しとされる時代です。こうした環境変化と食を組み合わせた時に、食の魅力をもっとブーストさせられるのではないかと考えたのです。
ー確かに、現代社会では組織の理屈よりも個人のあり方を優先して動く人が増えていますね。転職も以前に比べると盛んに行われていますし、周囲に合わせることが美徳とは限りませんね。なぜこのように変化したとお考えですか?
吉岡:これはミツカンではなく私個人の考え方にもなりますが、デジタル、特にSNSの影響が大きいと思っています。SNSが発達していなかった時代は自分の見聞きできる、手の届く範囲がその人にとっての社会でしたが、SNSが普及することで自分と遠く離れた所にいる人にも共感できるようになりました。ひょっとしたら以前はクラスの中で浮いてしまって「自分が変なのか?」と周囲に合わせていたような人が、今はSNSを通して「自分だけじゃない」と思えるようになったことで、個人・自分を主張しやすくなったのではないでしょうか。
ーなるほど、人の認知範囲がSNSで拡張されたというのはありえるかもしれないですね。ではこの意識変化で食文化にはどのような変化があったのでしょうか?
吉岡:例えばですが、一人焼肉のような業態がでてきましたよね。惣菜や調味料なども一人で食べることが前提になっているような小分けのパッケージや一人で使い切れる小さ目サイズの商品なども増えています。また、「団欒」という捉え方も変わってきています。辞書でひくと団欒とは“親しい者たちが集まって楽しく語り合うこと”と書かれているのですが、現代社会では“同じ時間・同じ場所に集まる”ことにとらわれずに団欒することだってできます。一人で食事をしていても、推しのライブを観て、ネット上の仲間と一緒にコメントをやりとりしながら楽しむようなシーンもありますよね。それも一つの個人の時間のあり方です。ただ間違えないでいただきたいのですが、私たちは一人で生きていくことを推奨しているわけではありません。必ずしも他の誰かを優先することや、誰かと一緒に動かなければならない時代ではなく、自分の気分やモードを優先することがあって良いというだけです。
人との繋がりを大切にする味ぽん
ーそこは間違えてはいけないポイントですね。長い歴史を持つ味ぽんブランドですが、ここ最近で新しいチャレンジはありますか?
吉岡:今年60周年を記念して、「地元を味わう味ぽん」シリーズをスタートさせました。日本は地域によって気候の差も激しいので、その土地その土地によって名産品があり、生産者や作り手それぞれに味がある。ただ、意外と知られていない食材や料理もありますよね。私たち味ぽんがきっかけとなって、食を通した地域活性をやっていくのがこのシリーズの目的です。
第一弾は宇都宮餃子とコラボレーションしました。150種類のレシピから試食して宇都宮餃子に合う味ぽんを開発したんですよ。宇都宮には宇都宮餃子祭というお祭があるのですが、味ぽんはそのお祭に長く協賛をさせていただいていて、もともと長くお付き合いがありました。この後も様々な地域とコラボした商品が出てきますよ。
ーそれは楽しみですね。他にもありますか?
吉岡: 60周年の活動はこの地元シリーズだけではなく、様々な企業様とコラボレーションする企画も動いています。東海道新幹線も60周年であることからJR東海さんとコラボしたり、日清食品さんとラーメンコラボをしてみたり。味ぽんの60年は、さまざまな方々との繋がりで紡いできた歴史でもあります。そうしたご縁を大切にするブランドでありたいと考えています。
ー今年のマイナビキャリア甲子園のテーマは「個人の行動基準」ですが、人のつながりは大切にしていくのが味ぽんなのですね。
吉岡:はい、先ほどもお伝えしたとおり、一人で行動して欲しいというわけではなく、組織や家族といった単位に応じた役割に縛られる事はない、という意味です。昔は、食事をとる時間が家庭の中で決まっていて、みんなで食卓を囲むのが一般的でした。しかし現代では家族の中でもそれぞれの生活、それぞれの時間があり、別々に食事をとることも珍しいことではありませんよね。しきたりにあわせて義務感から来る「こうしなければいけない」から解放されていくのが私たちのテーマの趣旨です。もともと、食には、味を楽しんだり健康の元になるといった側面の他にも人とのつながりを楽しむという魅力も持っているはずです。
ー先ほどの60周年キャンペーンのお話を聞いていると、味ぽんがつながりを大切にしていることがよくわかります。
吉岡:そうですね、味ぽんとしては情緒的なもの、文化を大切にしたいと考えています。ただ、高校生の皆さんがどう思うのかは興味があります。皆さんは自分たちの感覚を大切にして欲しいですが、違う世代の人の話や意見も聞いてみてください。そうすることで、現代の感覚がもっとよく理解できるはずです。個人を軸とした新しい行動基準の中でも、人との繋がりを作ったり感じることができるきっかけが味ぽんになるようなアイデアだと素敵ですね。