昨年、優勝チームを輩出したセコムが今年もマイナビキャリア甲子園に参加する。今年のテーマは、セコムが新たに発表した「セコムグループ2040年ビジョン」の考え方がベースになっているという。何かが起こってからの対応ではなく、不安な事態をそもそも起こさないようにする、という逆転の発想だ。今回のテーマに込めた真意を聞いた。(取材:羽田啓一郎)
お話を伺った方
沙魚川 久史さん
広島県出身。幼い頃から新しいものが好きで、小学生の頃からプログラミングを始める。新しいものを作りたいと理系のモノづくりの道へ進み、研究を続けるうちに四つの大学院を卒業。研究所を持つサービス産業の会社という点に惹かれセコムに入社。現在はオープンイノベーション部門の責任者。
木立 友里香さん
神奈川県出身。中学生の時に訪れたカナダをきっかけに英語が好きになり、大学は国際日本学部へ。コロナ禍で留学プログラムが中止になったが、休学して自力でカナダへ留学した。説明会でどんな質問にも正直に答えてくれる社風に惹かれセコムに入社。現在は人事とオープンイノベーションの仕事を担当している。
板倉 夏帆さん
神奈川県出身。小学校から高校3年生までバスケットボール一筋。「新しいものをつくりたい」という思いから、まちづくりとマーケティングを学ぶ都市生活学部へ進学。大学1年生の時に、セコムのテーマで挑戦したビジネスコンテストで決勝へ進み、そこで沙魚川さんに出会って入社を決めた。
準決勝までの企画を白紙に戻した、昨年の優勝チーム
ー昨年はセコム代表の「≒0(ニアリーイコールゼロ)」チームがInnovation部門で優勝しました。決勝大会までの1ヶ月はどのようなものだったのでしょうか。
沙魚川さん:彼らは準決勝までの企画をいったん白紙に戻して、取り組むべき課題からもう一度見つめ直すというリスクのある選択をしました。「コンテストを勝ち上がるための企画」と「自分たちが本当にやりたい企画」は違う、と彼ら自身が思っていたんでしょうね。私は反対せず、自分たちが思うようにやってみよう、と彼らの意思を尊重しました。決勝までの間、彼らはほぼ毎日セコムオフィスに来て、ブラッシュアップを重ね完成度を高めていきました。

ーゼロからつくり直す1ヶ月、どんな話をしていたのですか?
沙魚川さん:「目的は優勝することではなく、最高のパフォーマンスを出せるようにすることだ」という話は丁寧にしました。人が審査する以上、優勝できるかどうかは点と点がつながるかどうかの水物です。目的を優勝という他人の審査にゆだねるのではなく、自分たちの内側で評価できるものにしてほしい。最高のパフォーマンスができた、それ自体が成果であって、成果がよければ優勝は後からついてくる。「ここで優勝しないといけない」という強い脅迫観念に襲われないよう、その気持ちのスイッチを切り替えてもらうことに時間を使いました。結果として、準決勝までには出せなかったパフォーマンスが決勝の本番で出せた。圧巻のプレゼンテーションだったと思います。
ー板倉さんも大学時代、セコムがテーマを出したビジコンに出場されたそうですね。
板倉さん:大学1年生の時に初めてビジコンに挑戦して決勝まで残れました。ですがその後「実力じゃなくて運だよね」と思われるのが悔しくて、それ以降もいくつものビジコンやコンペに参加していました。自分がいいと思った企画も、客観的な意見を聞くと違う意見が返ってくる。それが自分の中では楽しかったんです。マイナビキャリア甲子園に参加する皆さんも、ビジコンの楽しさを感じてほしいですね。
セコムの考える、新しい「安心」
ー今年初めてセコムのテーマに取り組む方のためにも、会社について教えてください。一般的には警備会社という印象が強いと思います。
沙魚川さん:警備、セキュリティのイメージが強いと思いますが、それだけの会社ではありません。セキュリティ事業の売上はセコムグループ全体の約半分でしかなくて、防災、メディカル、サイバーセキュリティ、衛星などを使って国土のデータを計測する地理空間情報サービスまで手掛けています。毎年マイナビキャリア甲子園で高校生の皆さんにも考えてもらっていますが、社会にさまざまな安心を創っていきたいと思っているんです。

木立さん:セコムは「『安全・安心』をトータルに社会にお届けする会社」で、そのために高度なテクノロジーを駆使しています。1962年に日本で初めての警備保障会社として創業し、4年目にはセンサーとネットワークを活用したオンラインセキュリティサービスを開始、広く社会に普及させていったのです。
沙魚川さん:事業領域は本当に広いのですが、共通しているのは「センサー」と「ネットワーク」です。施設にセンサーを置き、病院では遠隔医療を提供し、衛星からは地理空間の情報を記録し続けている。そうした日頃の情報から、何か異常が起きたことをいち早く検知して、いち早く復旧させる。これが今までのセコムのビジネスでした。それをさらに、私たちは変えようとしています。
ーどのように変えるのでしょうか。
沙魚川さん:今年の5月に、長期ビジョン「セコムグループ2040年ビジョン」を発表しました。さまざまな安心の形を考えたとき、「何かが起きてもすぐに対処/復旧できる」という安心だけではなく、「そもそも何かが起きる前から分かる・リスクが減る」という安心の形もあるんじゃないか、と。私たちはこれを「プロアクティブ」、つまり事前対応と呼んでいます。
何かが起きる前に先回りして不安の芽を把握する。この価値が「先回りの安心」です。セキュリティも医療も防災も、世界中どこでも「異常が起きたことをいち早く検出して対処する」ことがスタンダードなので、「もっと他にもできることがあるよね」とグローバルのリーディング企業として世界に問題提起をしたわけです。

ーまだ言えないことも多いと思いますが、そのビジョンを達成するために動いていることはありますか?
沙魚川さん:2040年に向けた展望ですので、ぜひ皆さんとも一緒に考えていきたいんですが、一つ挙げるとすれば、ビジョンを実現すべく既に他社とも連携を始めています。例えば、Apple Watchと連携して利用者の行動を予測し、家に帰る直前や出かけた直後に、鍵やセキュリティの状態を変化させるなどです。これも一つのプロアクティブ(事前対応型)なサービスです。実際にアメリカのApple本社に行って開発協力をしてもらいました。
世の中のさまざまなものとセコムのシステムが連携すれば、今まで見えなかった街や社会の情報が見えてくるんです。
「グラデーション」というキーワードに込めたもの
ーその新しいビジョンが、今年のテーマにつながっているわけですね。「グラデーション」という言葉にはどんな意味があるのでしょうか。
沙魚川さん:私たちは平時と有事、正常と異常、日常と非日常というように、リスクを0か1かで評価してしまいがちです。でも実際の日々のリスクは波のように揺らいでいて、その度合いが高くなり、あるレベルを越えるから「異常」になる。例えば、学校の裏山が崩れてしまうと問題になるわけですが、そうなるまでには必ず兆候がある。小石がぱらぱらと転がり落ちている、などですね。だから有事になってからではなく、そこに至る前の、グラデーションのように揺らぐ波の段階から可視化していく。私たちのサービスもそうしていきたいと思っていて、これを今回のメッセージに込めました。
ーもう少し身近な例で言うと、どうなりますか?
木立さん:例えば駅の改札に入るときに「あ、スマホ持ってくるの忘れた」と気づくことってありますよね。でも、その瞬間に異常が起きたわけではない。朝たまたま違うところに置いたとか、前兆はいろいろあるはずで、だとしたら家を出るタイミングで「それでいいの?」と気づけるはずなんです。前兆が点と点で積み重なって事態につながるのだから、もっと早く気づけるといいよね、と。

ーとても面白いですが、難しくもありますね。高校生が考える上でのヒントをお願いしたいです。
板倉さん:結果から原因をひも解く、バックキャストの発想がいいと思います。「こうなったら嫌だな」という結果がまずあるはずで、そこから原因を探っていく。「夜の帰り道が怖い」というとき、帰り道そのものが怖いのではなく、そこに何かがあるから怖い。「忘れ物をしたくない」というのも、忘れてしまいそうな何かがあるからそう思う。因果を逆にたどっていけば、今回のテーマのアプローチにたどり着けるはずです。
ーどのようにアイデアを見つけるのが良いのでしょうか。
沙魚川さん:新聞やネットに載っている社会課題では新規性もないし、おそらく他の人も思いつくようなアイデアになるでしょう。そうではなく、まだ誰も気づいていない、誰も問題だと思っていないけど、自分では「こうなったら良いのに」と感じている課題を見つけてほしい。アイデア自体も大切ですが、まずは「自分が今何に困っているのか」または「今後何に困りそうなのか」を考えてみてください。過去のセコム代表チームも“学校内にいるのに友達の居場所がわからない”、“よそ行きの自分を演じているから本当の自分を見失う”など、等身大の問題だからこそ説得力があり、新規性がありました。
ーテーマを「5年後」という時間設定にした理由はなんですか?
沙魚川さん:ロジカルシンキングだけでなく、右脳も使って想像の世界に行ってほしいからです。「今」を前提にすると、今できることを考えてしまう。それではありきたりになってしまうし、つまらないと思うんです。だから「5年後」という少し先の未来を舞台にしました。
ー実際にビジコンに取り組んだ立場から、板倉さんのアドバイスもお聞きしたいです。
板倉さん:まずは自分ごと、主観で考えて良いと思います。スケールの大きな社会課題に目を向けがちですが、自分の生活の中で「こういうのが変わったらいいな」と感じたふとした部分を大事にしてほしい。お行儀のいいよそ行きのテーマではなく、根底にある本当の不安を言語化してください。そのうえで、商品やサービスになるということはお客様がお金を払うということなので、周りの人にどれだけ共感してもらえるかが大事です。先生やクラスメイト、保護者の方など、いろいろな人に話して意見を組み入れていくと、企画はどんどん良くなります。

高校生へのメッセージ
ー最後に、メッセージをお願いします。
板倉さん:私は学生時代に参加したビジコンで人生が大きく変わりました。やりたいことがわからず大学選びにも苦労していたのですが、自分の考えを発信し、いろいろな人に話すことで「自分はこういう考えを持っているんだ」と気づけた。強みも弱みもわかりました。7年近く経った今でも、当時のメンバーで集まるとその頃の話が出ます。自分のやりたいことを見つけるきっかけにもなると思うので、ぜひ挑戦してみてほしいです。
木立さん:これまでのマイナビキャリア甲子園を見ていて思ったのが、高校生がこのように企業の課題に挑戦することが普及してきたんだなということです。挑戦する高校生と、それを応援してくれる先生や保護者の皆さんがいる。eスポーツのように、新しい競技、行事として定着してきていると感じました。今年参加される皆さんも、このチャンスを活かして、楽しんでいただきたいですね。
沙魚川さん:社会の当たり前は、本当に自分たちの力で変えられます。高校生であっても、自分たちの思いを正しく伝え説得力のあるプレゼンをすれば、社会は変わる。新しい当たり前を自分たちでつくるんだという気構えで取り組んでほしいですね。大人が言うから、友達が言うから、ではなく動機は自分の中にある。それでこそ社会は変えられるのだと思います。
昨年は優勝した「≒0」チームだけでなく、準決勝で頑張ってくれた皆さんをセコムのヘリコプターでの東京周遊ツアーにご招待し、そこで慰労会をすることができました。今年もどんな高校生とお会いできるのか、とても楽しみにしています。

