テーマ解説2026

テーマ解説インタビュー dentsu Japan

私たちの生活の中で、毎日目にする「広告」。その広告を取り扱う企業のことを「広告会社」という。広告会社のトップ企業として有名なdentsu Japan(国内電通グループ)だが、現在は“広告を作るだけの会社ではない”と言う。今年、マイナビキャリア甲子園に初めて参加するdentsu Japanに、その仕事の本質と、高校生へのテーマに込めた思いを聞いた。(取材:羽田啓一郎)

お話を伺った方

山口憲介さん
愛知県出身。高校時代は水泳部で活動しながらも、勉強に打ち込んだ。大学では社会心理学を専攻し、人の行動変容を研究。電通入社後はコピーライター・クリエイティブを担当した後、dentsu Japanの広報を担当している。

古橋 正康さん
愛知県出身。中学時代に芸能関係の仕事を経験したことがきっかけで、大学では現代心理学を専攻し、映像や身体表現を総合的に学ぶ。在学中に電通クリエイターの授業で広告に魅了され電通に入社を決めた。コミュニケーションプランナーや若者向けの新規事業開発を担当し、現在はdentsu Japanの新事業開発を担当。

「広告屋」ではなく「課題解決のパートナー」へ

ーまずdentsu Japanとはどんな会社なのか、教えてください。
山口さん:世界120ケ国で事業を展開する「電通グループ」の中で、日本事業を担う約140社の総称が「dentsu Japan」です。中核企業の一つである株式会社電通は1901年、「日本電報通信社」の前身である「日本広告株式会社」と「電報通信社」を設立したことからはじまりました。当時の日本には、正確な情報を全国に届けるインフラがまだ整っていなかった。その情報インフラを整えるための資金を、広告事業で確保するというビジネスでスタートしたのが電通という会社です。「社会課題の解決」と「事業性」を最初から両立させようとしていたのです。

現在は広告にとどまらず、コンサルティング、テクノロジー、イベント、スポーツ・エンタメなど、幅広い事業を展開しています。「何をやっている会社か」と問われると一言では難しいのですが、私たちは「顧客と社会の成長と活力をともに創り出すパートナー」を目指しています。

ーそれまでの広告会社とは何が違うのでしょうか。
山口さん:広告会社をシンプルに説明すると、企業から「商品を宣伝したい」という依頼を受け、テレビCMや雑誌広告、ウェブ広告などをつくって届ける仕事です。いわば、企業とメディアの間に入って、ものを伝える役割ですね。

古橋さん:ただ、それはあくまで手段のひとつです。企業の課題がCMで解決できるなら広告をつくる。でも、もっと根本的なところに答えがあるなら、事業の組み立て方から一緒に考える。私たちdentsu Japanはそういう仕事に変わってきています。企業の方からご依頼をいただいて広告を流して終わり、ではなく、「本当に求めているものは何か」を一緒に掘り下げていく。それが私たちの言う「パートナー」の意味です。

ー具体的な事例はありますか。
山口さん:たとえば、「TUNA SCOPE」というプロジェクトがあります。日本の水産業を支える高度な職人技のひとつである、マグロ仲買人の「目利き」の技をAIに学習させ、誰でも高精度な品質判定ができるようにした取り組みです。
実は、マグロの品質を判定する熟練の技を持った職人が、全盛期の半数以下にまで減り、後世への継承に深刻な危機を迎えているという課題がありました。広告の力で、職人が足りないことを広く周知する、という方法も手段の一つとして有るかもしれませんが、それでは根本的な解決にならないですよね。そこで作ったのが「TUNA SCOPE」アプリです。熟練の目利き職人だけが持つ「暗黙知」をディープラーニングで継承し、場所を問わず高精度な品質判定を可能にしたのです。“世界中の誰もが、遠い未来にわたって、美味しいマグロを食べられる世の中”をゴールに、解決手段を作ったということです。

山口さん:北海道ボールパークFビレッジの街づくりも、私たちが関わったプロジェクトのひとつです。球場を中心に周辺エリアの都市開発も行う街づくりプロジェクトで、「PLAY HUMAN.——人が人らしくなれる場所」というエリアビジョンを掲げました。今までの球場は野球ファンだけが訪れる場所というイメージがありましたが、野球に興味がない人も楽しめる、試合のない日でも人が集まり、地域の人々に愛されるボールパークを、さまざまな人と協力しながら、つくりました。

dentsu Japanの強みは「ゼロからプラスをつくるクリエイティビティ」

ーどうして企業は自分たちでやらずにdentsu Japanに依頼するのでしょうか。
古橋さん:なかなか他の会社が考えることが難しい、新しいアイデアやソリューションが必要なときに、我々がお役に立てる場面が出てきます。私たちが大切にしているのは「人起点」の発想です。数字やデータだけでは捉えきれない、人の実感や気づきから新しい価値を見つけていく。コスト削減といった財務的な解決策より、「ゼロからプラスをつくる」など、既存のものに新しい光を当て、価値を生み出すことが得意です。一見どこにでもありそうな商品でも、視点を変えれば輝く部分が必ずある。そこを見つけ出すのが私たちのクリエイティビティです。

山口さん:「つなぐ力」「実現力」も大きな強みです。ビジネスの世界では自社だけで解決できるものばかりではありません。実現するためにはいろいろな人や組織を巻き込む必要がある。dentsu Japanには140社のグループ会社と、何千社ものクライアント様(企業・団体)との関係があるので、この企業とあの企業を組み合わせれば実現できる、といった連携が生まれやすいんです。ひとつの会社では解決できない課題も、異なる強みを持つパートナーをつなぐことで動き出すことがあります。自治体との連携実績も多く、「誰と組めばその未来を実現できるか」を一緒に考えることができます。先ほどお話しした北海道ボールパーク「Fビレッジ」でも、電通がさまざまなパートナーを繋ぐ役割を果たしました。

古橋さん:ただし、立場や利害関係が異なる人同士が共に大きなプロジェクトを動かすときには、話し合ったり調整したりする必要が出てきます。調整は人と人の間に入ることであり、それはAIではできません。実はdentsu Japanにはそうした、異なる意見をまとめ、ひとつの方向性(ベクトル)をつくり出す力があることも強みだと思います。

「等身大の視点」こそが、未来への種になる

ー今回のテーマには、どんな思いが込められていますか。
山口さん:マイナビキャリア甲子園を見ていて気づいたことがあります。高校生が企業のテーマに取り組む構図って、私たちが企業の課題を受け取って解決策を考える仕事とよく似ているんです。ならば私たちが普段やっていること——「課題を社会ごととして捉え、新しい事業を考える」——を、高校生にも体験してほしいと思いました。

古橋さん:そこで「自分たちがお題を出す側になるとしたら」と考えたとき、出てきたのが「等身大」というキーワードでした。若者は常に、世の中が向かっていく方向の最先端にいると思っています。たとえば、社会人はコロナ禍のタイミングでオンライン会議が普及しました。ただ、若者はずっと前から「寝落ち電話」をやっていましたよね。若者の間ではオンラインでやり取りすることがもっと前から当たり前になっていたと思うんです。高校生が日常だと思っていることの中に、まだ世の中に広まっていない価値が眠っている。その等身大の気づきこそが、新しい事業の種になるのです。

ー自由度が高い分、考えるのが難しそうに見えますが、どこから考え始めればいいですか。
古橋さん:出発点は、どこまでも個人的でいいのです。自分が毎日感じている「なぜ?」「もっとこうなったらいいのにな」という想いを大切にしてください。みなさんが夢中になっていること、友だちとの会話、やってみて気づいたこと。そこにしかない実感が、まだこの世の中にないアイデアを生みます。

古橋さん:ただ、「自分だけが嬉しい話」で終わらせないことが大切です。自分の気づきを「同じ思いの人がほかにもいないか」「解決すれば誰の毎日がどう変わるか」という視点で広げていく。たどり着く先が、世の中ごとであってほしいんです。また、思いついたアイデアは「ありそうか」「もうあるか」という2つのものさしで立ち位置を確かめてみてください。言われれば納得できて、まだ誰もやっていない——そこが「ありそうでなかった」ゾーンです。

ーありがとうございます。それでは最後に、高校生へのメッセージをお願いします。
古橋さん:今はAIを活用される方も多いと思います。ただAIに新規事業のアイデアを聞いても、本当にあなたが取り組むべきことは出てきません。AIは整理や壁打ちには使えますが、出発点は自分の内側になければなりません。自分の中から出てくるものだけが、人の心を動かします。皆さん自身の気づきや悩みが、世界を変える可能性を持っています。「こんなことが」と思わなくていい。自信を持って、その課題に本気で向き合い、情熱を持って考え抜いてほしいと思います。

山口さん:マイナビキャリア甲子園を通じて、企業と接する機会が出てくると思いますが、高校生の皆さんに背伸びをさせようとしてるわけではありません。スーツを着て大人のふりしてほしいわけでもないし、大人がやっていることができるかのコンテストでもない。表面をなぞった提案より、「これをなんとかしたい」という熱量が伝わるものが見たい。言葉にしにくい違和感やこだわりこそが、新しい提案の種です。dentsu Japanや企業に合わせにいく必要はないので、みなさんが本当に感じている、等身大の気づきを大切にしてください。等身大の気づきについては動画で解説しているので、ぜひ見てくださいね。

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