昨年マイナビキャリア甲子園に初めて参加したtdiが今年も高校生にテーマを出題する。今年のテーマは「生成AI」。すでに使っている人もいるかもしれないが、もっと便利な革新的な利用法もあるはずだ。このインタビューを読んで、改めてAIについて考えるきっかけにしてほしい。(取材:羽田啓一郎)
お話を伺った方
伊藤 亘崇さん
千葉県出身。高校時代はテニスに精を出していた。もともと得意だったこともあり、文理選択では理系を選択。数学と物理を武器に理系大学に進学した。大学進学後もテニスやサークル活動に熱中していた。就職活動の時には、社会的にもITの存在感が増していたこともあり、tdiに入社を決める。エンジニアとして働いた後、現在の経営企画の仕事に従事。
井出 詩帆さん
東京都出身。高校時代は読書活動や文章を書く文芸部に所属。メディアに関心があったので、社会情報学を学べる学部学科を選択し、大学に進学した。大学でも文芸サークルに所属していたが、ちょうどSNSやブログが話題になっていた時代だったので、ITやインターネットに関する勉強を始める。tdiに入社を決めたのは就職活動時に社風が合うと感じたから。総務の仕事をした後、現在の広報の仕事に就く。
ITシステムとはそもそもどういう存在なのか?
ー今年もよろしくお願いいたします。昨年は初めてマイナビキャリア甲子園に参加されましたが、全体振り返ってみていかがでしたか?
伊藤:素晴らしいイベントに参加させていただいたな、というのが素直な感想です。デジタルネイティブでもある今の高校生は本当にすごいと感心しきりでした。準決勝大会では、どのチームも今すぐに実現できそうな高いレベルのアイデアでしたが、スケール感や将来性、可能性を重視して「チーム永野」をtdi代表チームとして選ばせていただきました。
ー「チーム永野」とは決勝大会に向けてどれくらいコミュニケーションをとられたんですか?

井出:週2,3回はコミュニケーションを取っていましたね。彼らは大阪在住だったので基本はオンラインでのやりとりでしたが、私たちが大阪に訪問したこともありましたし、決勝大会の前日は彼らが東京に来て最後の打ち合わせを行いました。毎回毎回会うたびにスケールアップしていて短期間での成長が本当にすごかったです。
ー高校生との絆、素晴らしいです。ぜひ、今年もサポートをよろしくお願いします。さてtdiはITシステムを作るシステムインテグレーターという業種の企業ですが、高校生には馴染みがない言葉だと思います。まずこの辺りから解説いただけますか?
伊藤:高校生の皆さんにとってITと聞くとパソコンやインターネットが思い浮かぶかもしれません。もちろんそれらもITの一部ですが、今やITは社会に不可欠なインフラとなりました。社会を支えるインフラには電気やガス、水道、交通などさまざまな種類がありますが、これらのインフラも全てITによって制御されています。また、企業のビジネスや市区町村の手続きにもどんどんITが活用されています。つまり、ITとはすべての社会インフラを陰で支えるインフラであると言えるのです。
井出:私たちtdiは、そのITという世界の中で、システムを作って企業のビジネスをもっとよくするためのお手伝いをしています。このような企業のことを「システムインテグレーター」と言います。街中で動いているさまざまなものがITシステムで制御されていて、それを作っているのが私たちシステムインテグレーターです。
ー数あるシステムインテグレーターの中で、tdiの特徴は何でしょうか?

伊藤:この業界は大体60年前に生まれ、日本国内には約3万社のシステムインテグレーターがあります。当社はその黎明期に生まれた、老舗の企業です。長く、激動の時代を生き残ってこれたのは、諸先輩方がお客様との信頼関係をしっかりと構築してきたおかげだと思います。システムは沢山の開発会社が連携して、下請け・孫請けと開発をしていくことが多いので、企業によっては発注元であるお客様と直接コミュニケーションをとる機会が少ない場合もあります。当社は大半のお客様に直接ご契約をいただいており、お客様と直接コミュニケーションを取りながらシステムの提供が出来ることがが特徴であり、強みであると考えています。
なぜ、tdiは生成AIをテーマにしたのか
ーありがとうございます。では今年のテーマについて教えてください。今年のテーマは「生成AI」ということですが、生成AIについて改めて教えてください。
伊藤:簡単に申し上げると、テキストや画像、映像、音声などをAIが自ら取り込んで新しいものを創造するのが生成AIです。これまでもAI自体はありましたが、今まではデータを整理したり予測するまでだったのが、生成AIは自ら学び、クリエイトすることができるのです。インターネットの登場によって人間社会は大きく変化しましたが、生成AIはそれと同じくらい世の中をがらりと変革する概念と言えるでしょう。
ーIT企業であるtdiがなぜ今年、AIをテーマにしたのでしょうか
伊藤:AIをしっかりと武器にしていかないと、これから先の企業は生き残れないという危機感が私たちにもあります。例えば、生成AIはプログラミングもできます。今後、システムを作ってきた私たちIT企業に求められるものが変わってくる可能性もあるのです。そうした背景もあり、私たちも全社をあげて生成AIを活用する取り組みを始めています。そこでマイナビキャリア甲子園に参加する高校生の皆さんにも生成AIを活用したアイデアを共に考えていただきたいと考え、今回のテーマを設定しました。
ーtdiもAIを活用しているということでしたが、たとえばどのような活用をされているのでしょうか?

井出:例えば社員が社内の規定を確認する時、いちいち人事部に質問していたのが全てAIのchatbotを活用するようになりましたね。他にも社外に出す文章もこれまでは社内のルールやガイドラインを参照しながら書いていましたが、AIにガイドラインを覚えさせると文章の校閲もしてくれるんです。最終的には人間の目で確認はしますが、かなり業務効率化が進みましたね。
伊藤:当社はコロナ禍を機にテレワークを導入したのですが、現在もそのスタイルを継続しています。基本的に残業はしない働き方を目指し、社員の事情によっては時短勤務という働き方も選択できます。社員一人ひとりのワークスタイルに合わせ社員が健康健全で生産性を維持できる働き方を目指していますが、そのスタイルをさらによくするために生成AIが役に立っていると言えます。
ーAIによって働きやすい職場環境になったということですね。
伊藤:そうですね、AIは扱える情報量が人間と比になりません。極端なことを言えば、人間が時間をかけて頑張ればできることは、AIなら短時間でできるといえます。さらに人間と違って疲れませんし夜中でも稼働します。まだまだ新しい領域ですが、今後あらゆる分野でAIの活用法はありえそうですね。
生成AIを扱う上で気をつけた方がいいポイントとは?
井出:AIはあくまでインプットして学習した情報をもとにしています。ですのでそれを超えるものは基本的には出せません。またAIのアウトプットが本当に正しいとは限りません。生成AIが学習データを元に事実ではない情報を生成してしまうことをハルシネーションと呼びますが、これは皆さんも注意しなければいけないことです。またAIに大事な情報をインプットしたら、それが巨大なデータの中に取り込まれてしまうので情報セキュリティ上の課題もあります。
ー自分で考えずにAIに考えさせることが常態化し、人間の思考力を奪っているのでは、といった意見もありますがどう思われますか?
伊藤:確かに何かあればすぐAIに文章を書いてもらうようになりましたよね。今後人間が0から考え、作文するということはなくなっていくのかもしれません。ただ、使い方さえ間違えなければ長い目で見れば人類の進歩だと私は考えています。日本をはじめ少子高齢化がこれから進み、労働力が落ちていく中で今の社会を維持し、前進させるためにはAIの力は必要だと思います。文章も、AIが書いたものをそのまま信用せずに人間の目で確認し、評価できるようになればいいのです。

ーテーマの中に「つながり」という言葉が入っているのが興味深いです。さまざまな活用法がある中でなぜ「つながり」に注目されたのでしょうか?
井出:生成AIは何かを生み出すことに注目されていますが、もっと別の方法、考え方もあるはずです。今の若い方は精神的なつながりを求め、分断を気にする世代と言われています。生成AIに人格を与えて、パーソナルな相談相手にしている方もいますよね。このように、新しい技術を使って、まだ世の中にないつながりの方法を生み出すアイデアをいただけると嬉しいですね。
伊藤:今年のマイナビキャリア甲子園の大会テーマは「Bordarless Age」ですよね。あらゆる境界線がなくなるということはあらゆる物事が繋がっていくということだと思います。人と人、モノとモノ、情報と情報などがどんどんつながっていく。前向きで楽しく、今よりももっとポジティブになれるようなつながり方を実現する手段として、生成AIにできることがあるのではと思っています。
ーありがとうございます。それでは最後に高校生の皆さんにメッセージをお願いいたします。
井出:批判精神を大切にしてください。AIはまだまだネガティブに捉えられているところもあります。仕事、権利を奪うことを気にしている人もいるし、法律的なことでまだ追いついていないこともあります。ただ、「良い」「悪い」と一元的に受け止めないでほしいのです。日々様々な情報が流れてくると思いますが、情報が多ければ多いほど自分の目で考え判断するということが大切です。
伊藤:悩み事相談の相手が生成AI という人もいると思いますが、相手が人間であれAIであれ、批判する、評価するというリテラシーを持たないといけません。情報を右から左に信じるのは一人の人間として生きる力、強さを損なってしまうことにつながります。AIは確かに便利ですが、あくまで人間が使うものです。AIに使われる存在にならないよううまく活用していきましょう。
