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2022年度大会、マイナビキャリア甲子園に初めて参加するサントリー。高校生の皆さんも、普段からサントリー社の製品を愛飲していたり、知らない人はいない企業だろう。しかし今回、サントリーがマイナビキャリア甲子園に出題したのは商品企画やプロモーション企画ではなく、“リサイクル”がテーマ。リサイクルについては普段の取り組み方や意識に個人差があるのではないだろうか。知っているようで意外と知らない“ペットボトルのリサイクル”。この問題について、考えてみよう。(取材:羽田 啓一郎)*この文章は2022年9月に取材した情報をもとにしています。
■お話を伺った方
園田 修司さん
生物に興味があり、大学では遺伝子工学を学ぶ。美味しいものを食べたり、お酒を飲むのが好きだったこと、そしてものづくりが好きだったことから、食に関する仕事に就きたいと考え、サントリーに入社。入社後は果汁飲料の商品開発の仕事からキャリアをスタートした。
■サントリーが大切にしていること
ーサントリーの製品は普段から愛飲している高校生も多く、全く知らないという人はほぼいないのではと思うのですが、サントリーが飲料メーカーとして大切にしていることを教えてください。
園田:私たちは2005年から「水と生きる」というコーポレートメッセージを掲げています。サントリーのものづくりは全て水を使うので、あらゆることに対して水を起点に考えています。サステナブルという言葉がこんなに広く使われるようになる前から、私たちはどうすれば環境に負荷をかけないか、ということを考えてきました。
ー確かに「水と生きる」という言葉は有名ですね。
園田:サントリーグループの企業理念として「人と自然と響きあう」という言葉もあります。創業時から、サステナビリティという考え方は企業文化として根付いているのです。この考え方に基づいて、社会福祉や文化活動など、社会に貢献できる取り組みも積極的にしています。
ー企業としての考え方はよく分かりました。では商品の作り方、考え方はいかがでしょうか。普段私たちが飲んでいる清涼飲料という商品はどのようなプロセスで生まれてくるのでしょうか?
園田:私はもともと商品開発の仕事をしていたのですが、大切にしていたのはお客様の心の本音に入り込む、ということです。消費者のインサイトを深く深く探っていくことを重要視していました(インサイト:消費者の潜在的な意識、欲求、願望のこと)。私は果汁系の飲料を担当していたのですが、実際のユーザーにインタビューを行い、どのような場所でどういう気分の時に飲用するのかなど、飲用実態や気持ちを深堀りして、消費者が何を求めているのか考えて、商品の開発を行っていました。まずは消費者の本音を知るところからサントリーの商品開発は始まります。
■テーマに込められた想いとは
ーありがとうございます。では今回のテーマについて教えてください。今回はペットボトルのリサイクルがテーマですが、なぜこのようなテーマにしたのか改めて教えていただけますか?
園田:私たちは循環型社会を目指し、10年以上前から、業界の中でいち早く「ボトルtoボトル」水平リサイクルに取り組んでいます。「ボトルtoボトル」水平リサイクルとは、使用済みペットボトルを、新しいペットボトルに生まれ変わらせるというものです。
ー「ボトルtoボトル」水平リサイクルについて詳しく教えてください。
園田:ペットボトルは、特に日本においては回収スキームも整っており、リサイクル率88.5%と資源としてリサイクルしやすいのが特徴なのですが、食品トレーや繊維など他のプラスチック製品にリサイクルされてしまうと、そのあとは焼却処分されることが多く、1回のリサイクルに留まり循環が途絶えてしまうのです。だから私たちは使用済みペットボトルを、他の製品ではなく、新たなペットボトルに何度も生まれ変わらせる「ボトルtoボトル」水平リサイクルを推進しています。
ーなるほど。ペットボトルは他の製品にリサイクルもできるけど、それをしてしまうともうペットボトルには利用できない、ということですね?
園田:そうなのです。「ボトルtoボトル」水平リサイクルはペットボトル資源を何度も循環でき、新たな化石由来原料を使用しないことに繋がります。新たに石油由来原料を使用する場合と比較してCO₂も約60%削減できるんですよ。ただ、「ボトルtoボトル」水平リサイクルを推進するにはまだ課題もあり、ペットボトルの飲料のお客様でもある高校生の皆さんのアイデアを是非聞きたいと思い、今回のテーマを設定いたしました。
ー例えばどんな課題があるのでしょうか?
園田:大きな課題がペットボトルの分別です。飲料業界全体で見ると「ボトルtoボトル」水平リサイクルが実現しているのは15.7%しかありません。なぜそんなに低いのかというと、回収できたペットボトルをリサイクルしようとしても他の製品にせざるを得ないからです。それには、回収した“ぺットボトルの状態”に問題があります。
ー“ペットボトルの状態”の問題とは?
園田:分別と飲み残しです。家庭から出され、自治体で回収されるペットボトルはキャップ、ラベルが分別され、中身をすすいでから出していただけるので汚れも少なく「ボトルtoボトル」水平リサイクルが実現できるのですが、屋外、特に自動販売機横のリサイクルボックスはキャップやラベルが分別されず、飲み残しや他のゴミが入った使用済ペットボトルが入れられています。集められたペットボトルは、人の手でひとつひとつ仕分けされます。飲み残しがあるものは中身が飲料なのか飲料ではない液体なのか判別できないため、リサイクルの工程から除外されてしまいます。また、ゴミなどが入っている場合も同様に除外されてしまします。なので、ペットボトルの中に飲み残しやゴミがあると「ボトルtoボトル」水平リサイクルが困難になるのです。
そこで、サントリーでは、屋外では、ペットボトルの中身を飲みきって、容器の中をカラにして、リサイクルボックスにいれてもらうようにお願いしています。できれば、キャップとラベルも外して、ペットボトルと一緒にリサイクルボックスにいれてもらえると、その後のエネルギー効率もよくなるため、より環境負荷が低いリサイクルにつながります。
ーなるほど…。飲み残しは確かに悪意なくしていることがあるなと自分でも思い当たります。しかし自販機横のリサイクルボックスにはペットボトル以外のゴミがそんなに捨てられているものなのですか?
園田:残念ながら約30%は他のゴミが捨てられていると言われています。そもそも、自動販売機横のリサイクルボックスがリサイクルするための存在だと知られていません。あれをゴミ箱だと思っている方が多いのです。ゴミ箱だと思っていると色々なゴミを捨てて良いものだと思いますよね。しかしゴミが入ってしまうとリサイクル工場で分別しないといけなくなり、余計なエネルギーを消費します。また、キャップがついているとゴミ収集車の中で圧縮ことができません。圧縮されないとトラックで収容できる量が減ってしまい、結果的にトラックの稼働が増え、CO₂の排出につながってしまいます。リサイクルボックスの投入口が一つしかない場合は、同じ投入口に入れてもいいのでキャップを外していただけるとそれだけで環境負荷低減につながります。
ー知らなかったとはいえ、自分の行動を見直さなくてはいけないと感じました。日常的に大量に消費されているペットボトルだからこそ、一つ一つの小さな行動が大きな問題につながってしまうのですね。念の為お聞きしますが、今回のマイナビキャリア甲子園ではあくまで扱うのはペットボトルであり、缶などは対象とはなりませんか?
園田:そうですね、今回はペットボトルをテーマとさせていただき、また他の製品へのリサイクルではなくボトルtoボトルを目指した企画を考えていただきたいです。持続可能な社会の実現のために、サントリーは2019年にプラスチック基本方針というものを定めました。これは、2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルの素材をリサイクル素材もしくは植物由来素材に100%切り替え、化石由来原料の新規使用をゼロにしよう、という目標です。今回のマイナビキャリア甲子園では、この考え方をみなさんに知っていただいた上で、取り組んでもらいたいなと考えています。
■高校生へのメッセージ
ーありがとうございます。では最後にマイナビキャリア甲子園に取り組む高校生の皆さんへメッセージをお願いします。
園田:今日お話しさせていただいた通り、テーマは壮大ですが、私たちの日常的な行動によって変えられることばかりです。色々問題はありますが、まずは多くの方がリサイクルについて知らない、ということが大きいなと考えています。ただ、知ったとしてもどう行動を変えるか、これも難しい。おそらく、みなさんも家でゴミを捨てる時は分別したり飲み残しをすすいでから捨てるなどの行動を普通にしていると思います。それと同じ状態が自動販売機の横のリサイクルボックスでも作れるのが理想です。
ヒントは皆さんの中にあります。自分、そして身近な人たちの知識、意識、行動を観察してみてください。そこから考えてもらえると、効果的なアイデアが出てくるのではないかなと思います。みなさんからのご提案、楽しみにしています。